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危機対応の内部監査は「指摘する監査」ではなく「再建を設計する監査」になる

私はかつて、ある上場企業で内部監査に携わっていました。会社が市場から「内部管理体制に問題あり」と名指しされ、その立て直しの渦中にいた時期です。

ある海外拠点の監査で、私は通常の内部統制の不備を指摘するだけでは終えませんでした。その拠点が事業全体の中でどういう位置づけにあるのか——稼げているのか、リスクに見合っているのか——というところまで踏み込み、監査委員会に報告しました。結果として、それは経営レベルでの事業判断、最終的には事業の売却を含む戦略的な意思決定の一つの起点になりました。

このとき、私は確信しました。危機対応下の内部監査は、平時の「指摘する監査」とは別物だ、と。

本記事の信頼性

グローバルメーカーでの内部監査やBIG4での内部監査アドバイザリーなど豊富な内部監査の経験に基づいています。

目次

なぜ今、これが効くのか

上場企業が有価証券報告書の虚偽記載などで「内部管理体制の改善の必要性が高い」と取引所に認められると、特別注意銘柄(かつての特設注意市場銘柄)に指定されます。指定された企業は、原則として1年後に「内部管理体制確認書」を提出し、体制が適切に整備・運用されているかの審査を受けます。

ここが重い。1年以内に体制の「整備」すら認められなければ、上場廃止。整備できても「運用」の実績が足りなければ指定は続く。求められる水準は、実質的に再上場審査(IPO)に匹敵します。

つまり、規程を直しました、フローを変えました、という「指摘と是正」だけでは到底足りない。外部(市場・取引所)に対して「この会社はもう大丈夫だ」と立証しなければならない。この立証責任の重さが、内部監査の役割そのものを変えるのです。

「再建を設計する監査」とは何か

平時の内部監査が「ルール通りか」を確認するのに対し、危機対応下の監査は、再建そのものに踏み込みます。私が現場で重要だと痛感したのは次の点です。

  • 根本原因まで掘る:不備そのものでなく「なぜチェック機能が働かなかったのか」——業務フロー、組織、人事制度の構造的欠陥まで遡る。
  • 運用実績(エビデンス)を作りにいく:規程改定はゴールではなくスタート。ルール通りに回っている客観的証跡が積み上がって初めて「運用されている」と言える。その時間軸を逆算して監査計画を組む。
  • グループ・海外子会社まで貫く:本社が綺麗でも、海外拠点や子会社の統制が空白なら立証は崩れる。親会社による子会社管理体制が実際に機能しているかを見にいく。
  • 三様監査で連携する:監査役監査、会計監査人と情報を共有し、バラバラでなく一枚岩で「実効性」を示す。

そして最後の一押しが、冒頭の海外拠点の話です。統制の不備を「指摘」して終えるのではなく、その拠点の事業上の意味まで洞察して経営に差し出す。ここまで踏み込んで初めて、内部監査は再建の設計図の一部になります。

現場への問い

  • あなたの監査報告は、不備の指摘で止まっていませんか。それとも経営が次の一手を打てる洞察になっていますか。
  • 「規程を直した」で満足していませんか。運用が回っている客観的証跡を、どれだけの期間ぶん蓄積できていますか。
  • 海外拠点・子会社の統制を、本社と同じ解像度で見られていますか。

私はこう考える

危機対応の監査で一番苦しいのは、独立性と当事者性のトレードオフです。第三線として一歩引いた独立性を保つべき立場でありながら、再建の当事者として深く踏み込まなければ会社が立証責任を果たせない。この綱引きの中で、どこまで踏み込み、どこで線を引くか。正解の公式はありません。

それでも私は、踏み込む勇気のない監査は危機を救えないと思っています。指摘する監査から、再建を設計する監査へ。これは危機対応に限った話ではなく、これからの内部監査が向かう方向そのものだと、私は考えています。

今回は以上です。

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